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東京高等裁判所 昭和30年(行ナ)11号 判決 1955年10月13日

原告 帝国紡績株式会社

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十八年抗告審判第五八二号事件について、特許庁が昭和三十年一月二十日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立てた。

第二、請求の原因

原告代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、昭和二十七年六月十二日別紙記載のように、十八筋の射光を丸く配置した朝日の図形を画き、その中央に羽根をひろげて前向きに描き出した蜻蛉の図を配し、下部に「テープ」の両端の部分は波状に裏にまげ立てた図形を配し、その「テープ」の中央にゴジツク体で「アサヒトンボ」の片仮名を左横書にして構成された原告の商標について、第二十七類綿糸を指定商品として、その登録を出願したところ(昭和二十七年商標登録願第一五一三〇号事件)、拒絶査定を受けたので、昭和二十八年四月二十日抗告審判を請求したが(昭和二十八年抗告審判第五八二号事件)、特許庁は昭和三十年一月二十日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同月二十二日原告に送達された。

二、審決は、別紙記載のような登録第三八〇一〇号商標(指定商品第二十七類綿糸、染糸)を引用し、「右商標は、職権を以つて当該登録商標の現商標権者森林株式会社について調査したところ『右登録商標は、「トンボ」の図形と「日の出」の図形を組み合せたものであります。』と回答ありしことにより、本願の「朝日の図形と蜻蛉の図形の結合を要部とせる」ものとの間に観念同一、又称呼上彼此相紛れるの虞が充分生じるものとし、指定商品の互に牴触することと相俟つて拒否せられるべきものとする」としている。

三、しかしながら、審決は次の理由によつて違法であつて取り消されなければならない。

(一)  商標法第二十四条により準用せられる特許法第百条の職権を以て証拠調を為すことを得る旨の規定と雖も不適正な証拠調を許すものでないことはいうまでもない。前記回答者森林株式会社は引用登録商標権者として、自己のためには故意を以て説述し、不当に事実を歪曲するの惧充分あるものというべく、よつてその回答のみを唯一の根拠として、直ちに「明かである。」というが如き軽卒な断定を下すは危険であり、適正ならざる証拠調なりとなすを相当とする。

(二)  日の出(即ち朝日)と認定せらるる条件として「円形に射光を配する」ことは、多数の既登録例並びに審決例が従来一貫して顕示せる見解の如くであるが、この見解に反して「単に円形を有するのみ」の引用登録商標を「日の出と認めらるる図形なり」と認定するに際して示された前記の如き軽卒な態度は、特許庁に対する国民の信倚を損い、ひいては法の尊厳を失すること大なるものと考えられる。このようなことは、明かに特許法第九十三条第一項の規定にいわゆる「公正を妨ぐべき事情ある場合」に相当し、当該審判官が忌避せらるるべきであるにもかかわらず、不公正なる審決を敢てなしたものといわざるを得ない。

第三、被告の答弁

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因としての原告の主張に対し、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、これを認める。

二、同三の主張は、これを否認する。

(一)  日の出(すなわち朝日)の図形を一般世人が識別する場合の根拠は、多種多様の理由が勘案されて判断されなくてはならぬものであることは、社会通念上当然の事柄であり、原告の主張するように「円形に射光を配する」図形の場合のみが、日の出(すなわち朝日)なりと断ずることは誤りである。しかも既登録商標の事例及び審決例においても、前記のように判断されているから、この点についての原告の主張は、その理由がない。

審決は原査定の認定が取引上妥当であつたかどうかを確めるため、職権調査をなし、その回答(乙第二号証の二)を得たところ、その内容は信疑をさしはさむ余地のない充分信用することができるものであつたからこれが採用となつたものであつて、このような証拠は唯一でも事足りるものであることは極めて明かなところであり、これを採用したからといつていささかも違法な措置でない。

第四、証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、右当事者間に争のない事実と、その成立に争のない甲第一号証及び乙第一号証によれば、原告の出願した本件の商標は、別紙記載のように、朝日にとんぼを配した図形と、その下部にリボン状の輪廓のなかに片仮名で左横書にした「アサヒトンボ」の文字とで構成されており、審決が引用した登録第三八〇一〇号商標は、別紙記載のように、塗り潰した大きな円形の前面にとんぼを配した図形で構成されておることが認められる。

三、よつて右両商標の類否について判断するに、両者がその外観において類似しないものであること及び前者が「アサヒトンボ」の名称で呼ばれ、朝日ととんぼとによつて構成された商標として印象されることは、前記商標自体から明白である。

次いで引用登録商標がどのような称呼及び観念を有し、原告の商標とこの点において類似するかどうかを考えて見るに、引用商標が単にとんぼ印または日の丸とんぼ印と呼ばれ、これに対応した観念を生ずることは、右商標自体及びその成立に争のない甲第三号証の一、二によつて認められる。しかしながらその成立に争のない乙第二、三号証の各一、二を綜合すれば、右引用登録商標は、実際取引上「ヒノデトンボ」の名称によつても取り扱われていることが認められ、この事実によれば、右引用商標が、日の出又は朝日ととんぼによつて構成された商標としても観念されるものと認定するを相当とし、この点において両商標は類似するものと解せられる。

原告代理人は、商標の図形が日の出または朝日と認定せられるには、「円形に射光を配すること」を必須の条件とすると主張し、なるほどその成立に争のない甲二号証の一、甲第二号証の三の一から四まで、六、十、十二から十六までによれば、円形に射光を配した図形の商標が「日の出」と呼ばれていることを認めることができるが、日の出または朝日と観念され、または呼ばれるには、必ず「円形に射光を配すること」を条件とするとの事実は、未だこれを認めるに足る証拠はないから、原告の右主張及び提出にかかる証拠は、いずれも前記認定を妨げるものでない。

四、審決は、以上のように当裁判所が独自な立場において、新たな証拠を考慮に入れてなした認定と、結局同一の認定に基いて判断をなしたものであるから、特許庁がなした証拠調に対する原告の非難は採用することができず、また原告の主張三の(二)のような事実は、到底審査官に「公正を妨ぐべき事情ある場合」とはいい得ないから、この点についての原告の主張も、これを採用することができない。

原告の主張は、いずれもその理由がないから、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

別紙

本件商標<省略>

登録第三八〇一〇号商標<省略>

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